自句自解9 広げたる手が・・・
「広げたる手が路地の幅昼ちちろ」
(ひろげたるてがろじのはばひるちちろ)2007/9月
大阪市生野区猪飼野は母が生まれ13歳まで育った場所である。
母の父(私の祖父)は四国の人間だが大正時代の初めにこの地で商売を始めた
商才があったのか事業は拡大し沢山の従業員を雇うまでになった。
その中には朝鮮人が多くゐた。猪飼野は当時も今も半島から渡ってきた人やその子孫が多く暮らす町だ。
母は「おじいさんは偉かった。職人さんも家族も分け隔てなく同じものを食べた」と言っていた。
私は母から「朝鮮のおばさんたちはみんな情が深くてやさしい」と聞いて大きくなった。
活気あふれるこの町で母は豊かな少女時代を過ごしたようだが
昭和十年代になるとこの国全体にきな臭い匂いが漂い始める。
祖父はこの地を離れ、府下の新天地で新たな出発をする。
戦争前夜である。
季語はちちろ。蟋蟀(こおろぎ)
夜はもちろん昼間でも民家の薄暗い場所でりりりりりと鳴く。
昼に鳴くので昼ちちろ。こおろぎには、つづれさせという何とも深い秋をおもわせる別の呼び方もある。
玄関と玄関が向かい合わせになる狭い路地。鳳仙花や鶏頭や風船蔓の鉢がよく手入れされてならんでいる
「そうですか。手の広幅ね」「もう少しせまくはありませんか?肩と肩が触れ合うくらい・・の」と
菖蒲あや(路地を詠んだ俳人)と研鑽を積んでこられた我が師はおっしゃった。
「いいえ。これくらいありました!」と私は手を広げる。楽しい思い出である。
路地と露路の違いもこの時おそわった。
母が少女時代を過ごした辺りは今は「コリアタウン」と呼ばれ観光名所になった。
同日にいくつかの句を作った。また出します。
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