男っていう生き物はバカだね。浅いね。愚かだね。
女の真心が信じられないんだね。
あの人も、満座の中で恥をかかされたってんで、キレちゃってね。ついには十人切りさ。
だから、男に刃物を持たせちゃイケナイって言うの。
しかも、名刀・青江下坂(あおえしもさか) でしょ。
そりゃ、もう。バッサ。バッサよ。おお怖い。
千秋楽間じかになった七月歌舞伎
伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)を観てきました。
三味線・おたま十八番の「伊勢音頭」をBGMに。
やっとこせ~よーいやさとご陽気に幕が開きます。
舞台は観光のメッカ、お伊勢さんにある廓。
主人公は神さん系の仕事と観光ガイドを兼任する「福岡貢(ふくおかみつぎ)」さんで~す。
そもそも、なんでこんな大事件が起こったかといえば、ご家老さんちのぼん万次郎が遊女に入れあげ刀を質入しちゃったからなの。
その刀というのが名刀で、お家騒動の重要アイテムとなるのです。
こんなことから、お話は始まるのですがね。
序幕で松嶋屋の三兄弟が板(舞台)の上に揃います。
仁左衛門(福岡貢)
我当(藤波左膳)
秀太郎(今田万次郎)
おめでたくは有りますが、我当さんのおみ足大丈夫でしょうか、正座が叶わず中腰での演技、晩年の先代仁左衛門が椅子に座って演じておられたのを思い出しました。立ち上がるときそちらにハラハラ気を取られるあちくしでありました。
上方女形芸の王道を歩いてきた秀太郎。今回はアカンたれの万次郎と廓の遣り手・万野の二役です。
先ずは、万次郎。「もう、しっかりしなはれや」と突っ込みどころ満載キャラである、和事系二枚目の柔らか味、愛らしさはさすが秀太郎だと思います。この方は役が自然に体からにじみ出るところがスゴイ。ホンマにこんな人いるんやろなと思わせます。
かたや万野。この芝居の中で重要なキーパーソン。
廓でこの人に楯突けば、好きな遊女にも逢わせて貰えない。客と遊女の駆け引きもろもろを影で操る年増オンナであります。
いかにもその世界に生きてきた女独特の色気、ずるさ、いやらしさ、憎らしさをたっぷりと出さなければなりません。
団扇片手に貢に擦り寄るしぐさ、腰を振りながらの後姿。ホンマに自然体やわ。
そやけど、納得いかんのです。なんやろ・・・
何か、ピリッとしない。
例えば、貢の鞘が当たる・・首に違和感を感じ手をあてる・・・手についた血を見たときの驚き・・・
この時点で万野に驚きはあっても、恐怖心はない。
「こらあ!何してくれるねん貢はん!」あわよくば「かましたろか」くらいの心持の女だと思うのです。
また貢にしても、血を見た・・あわてた・・・逆上した。
「ボク何も悪く無いも~ん。みんなこの妖しげな刀がわるいんだよ~ん」
うつつから地獄にチェンジするその刹那はあの芝居の中でぼんやりしている。
そのあたりがピリッとしないと感じるゆえんでしょうか。
お話は、原作三幕目以前を上演することでストーリーを判りやすくする狙いだったようですが、はっきり言って冗長でした。
妖刀に魅せられた残虐な殺しの場面も、何か最近、仁左衛門で殺しばっかみているせいか、ゾクゾクっとまではこなかったな。ハイぜいたくなこってす。
昔、見た玉三郎の「万野」
もう一度見てみたいです。
貢はもちろん仁左衛門でね。
やーとこせー よーいやな ありゃや。
あれわいせー。このなんでもせー。
福岡貢・仁左衛門 万次郎/万野・秀太郎
奴 林平・愛之助 北六・秀調 岩次・亀蔵
藤波左膳・我当 油やお紺・時蔵 喜助・三津五郎
最近のコメント