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2011年3月 1日 (火)

鈴木しづ子



「夏みかん酢つぱしいまさら純潔など」鈴木しづ子

                       (河出書房新社)

掲句が標題となった、本を読んだ。
伝説の女流俳人といわれる鈴木しづ子の二冊の句集
「春雷」「指輪」を一冊にまとめたものである。

いや~。面白かった。
何がって?
巻末にある、詩人・正津勉氏である。
詩人らしからぬ(?)率直な文章で感想を述べておられる。

句を読みすすむにしたがって、
「なんでやねん!」と突っ込みをいれたおたまは、小さくガッツポーズをしてしまったほどだ。

鈴木しづ子。1919年・東京生まれ。
戦中・戦後のごく短い期間に鮮烈な印象の句を人々の胸にに刻み込んで、忽然と姿を消した女流俳人である。

女性としては当時珍しい製図工として工場勤めをしていた文学好きの若き日々が第一句集「春雷」に収められる。
そして、「どないしはったん?何があったん?」と驚きの第二句集「指輪」である。

戦後を生きる女性の事情は我々には計り知れない。
婚約者の戦死により、大きく運命が動いたしづ子であった。

正津氏の文によると、母の死、婚約者の生死不明の最中の恋愛。別の男性との唐突な結婚、離婚・・・と歯車は回り始めるのであるが、

身を消すように東京を離れ(このあたりから伝説の女っぽくなっていく)ダンサーになり、黒人兵と同棲。
折りしも「こんな女に誰がした」という歌がはやっていた。

彼女のそれが自由恋愛であったのか、生計の糧であったのか、判然としないが、世間はそんな境遇の女性の句に飛びつく。
この手の本としては、珍しいベストセラーになった。

彼女が星の流れに身を任せたのかどうかはわからない。「春をひさぐ」仕事についていたわけでも無さそうだが、「そんな、投げやりにならんでも・・・」という表現の句がつづく。

敗戦国のうら若き女性が敵国の男の腕にぶら下がり歩く。その光景を当時の日本人はどのような思いで眺めていたのだろう。哀しみ・侮蔑・同情・好奇・自責・・・・貞操という観念が今とは全く異なる。

当事者のしづ子の句をどのように読んだのだろう

朝鮮出兵から帰還した彼は麻薬に犯されており、あわただしく本国に帰る。
テキサスに住む彼の母から「急死」の知らせを受けたのは、わずか二ヶ月後だったそうだ。

この怒涛の時間を全て句から拾い起こすことは出来ない。
しかし・・・逆も又・・・である

というのは・・・

「句は私の生命でございます」というしづ子は、おびただしい数の句を師へ送っていた。
正津氏ははっきりとはおっしゃっていない、あくまでもおたまの深読みですとお断りしておくが、このおびただしい句の中から師・松村巨湫が、ある傾向の句のみピックアップしていたなら、しづ子であってしづ子ではない一つの像を作り上げることもできるのではないか。

かくして(って勝手にそう思ってるんだけど)句集「指輪」は上梓され、注目された直後のしづ子の失踪により、才能豊かな女流俳人は「伝説の人」となる。

鈴木しづ子。
今、生きておられたら92歳。
アメリカに渡ったとも、北海道で別名で出現した俳人だとも言われているそうだ。

まさに伝説の人。

ジンギスカンになった義経ほどではないにしても。

「ひざ近くもだしゐたりき雪ふる音」
「いとしさの十の指はもかぜ癒えよ」
「さくらはなびら著け笹の葉ふかれゐる」
「そびらより南風つよく出勤す」
「東京と生死をちかふ盛夏かな」

                       (春雷)

「寒の夜を壷砕け散る散らしけり」
「体内にきみが血流る正座に耐ふ」
「菊白し得たる代償ふところに」
「煙草の灰ふんわり落とす蟻の上」
「月明の橋を越ゆれば町異なる」
                       (指輪)



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コメント

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いやあ、参りました。
鈴木しづ子のことではなく、「師がある傾向の句ばかりえらんでいたら・・・」というくだりのうがった見方に、わが意を得たような気がして。
おたまったら!(・皿・)

投稿: NANTEI | 2011年3月 1日 (火) 09時47分

NANTEI兄ちゃん。
だしょ?俳句って怖いわ。
鑑賞では、「句と作者の名前は切り離すことが出来ない」ってウチの○○はおっしゃるんだけどね。
素直に生活諷詠詠めるひとは立派だとおもいます。
でも、そんな境涯だ、人柄だって思われたら(それも尊敬する人にほめられたら)どこかに「応える」気持ちってでないかなあ。
しづ子には読み手も含めてプロデュースされた印象があります。わからんけどね。

妹おたま、亡夫追慕の句なんて読めないねん。これも、可愛くないけどね。

投稿: おたま | 2011年3月 2日 (水) 09時03分

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